molecular mimicry:モレキュラーミミクリィ
歯周炎が、プラーク、いわゆるプラーク中の細菌によって引き起こされることは疑う余地がありません。そしてさらに、その細菌に対する異常な免疫応答がその原因であるといわれています。
ところが、プラークが多量に付着しても歯周組織の破壊がほとんど見られない人もいれば、プラークの量が少なくても高度な破壊がみられる人がいるのも事実です。
歯周疾患を免疫的に見て言った場合、すでに50年以上前から、歯周炎の組織において、自己免疫的様相を呈しているのではないかという研究者と、その研究発表は、少なくありませんでした。
自己免疫疾患とは、本来免疫応答を起こさないはずの自己の成分に対して抗体を産生して、結果、組織障害が引き起こされることを言います。
つまり、歯周炎組織において、侵入した細菌と、自己(宿主)の構成成分のアミノ酸配列が類似していることにより、細菌抗原に対する免疫応答が、宿主の抗原に交差反応し、組織破壊を起こすというものです。
これが、モレキュラーミミクリィ(molecular mimicry、分子相同性)という概念です。
歯周炎においては、この概念(仮説)を考慮できる物質の一つに、熱ショックタンパク質(heat shock protein : HSP)があります。
HSPは、熱や炎症など、さまざまなストレスによって細菌や細胞が産生するタンパク質です。
多くの生物が持っていて、ヒトにおいては自己免疫疾患患者の血清中でHSPに対する抗体が見つかっています。
歯周ポケットから細菌が感染した場合、歯周組織に起こる炎症反応は、個々の宿主細胞にとっては大きなストレスとなり、細胞はHSPを発現して自らを守ろうとします。
ところが、このHSPが、歯周病原細菌のそれとあまりにも相同性が高いため、歯周病原菌のHSPに対して誘導された免疫応答は宿主のHSPも認識することになり、結果的に組織破壊が亢進していくという機構が考えられます。
私も大学の歯周病学講座に在籍していた時、モレキュラーミミクリィ(molecular mimicry)についての研究を行いました。その実験においても、歯周病原菌と歯周組織に存在しているいくつかのタンパク質のアミノ酸配列の相同性がみられ、モレキュラーミミクリィ(molecular mimicry)が歯周炎発症のメカニズムに関与している可能性が示唆されると、発表をした事を、今更ながらに、覚えております。
この、現象をつぶす事無しに、難治性歯周疾患はなかなかどうして、治らないものではないかと、思うのです。
そして、それが、先に書いた鏡の絵に繋がっていくわけです。
この自己免疫疾患の状態を、いかに解放させるかが、この状況からの解放につながると、日々の治療で思う時があります。
読んでみると、別に肩肘張るものではなかったと思いますが、いかがでしょうか?